2006年 08月 01日
新自由主義化先行国アメリカで進行する内部矛盾-1
 安倍長官が『安倍晋三対論集』の中で述べたという「日本はアングロサクソン流の市場経済に踏み切りました」という言葉にもあるように、小泉政権のもと「構造改革」と称し、日銀も含めた官僚・経済界をも巻きこんでアメリカ型新自由主義経済社会へ日本は大きく舵を切りました。
 ただ、その新自由主義型経済社会の先達であるアメリカの「ニューエコノミー」による「勝利」の影で、個々の国民がどのようになってしまったのか、アメリカ出身のビル・トッテン氏もたびたびご自身のwebコラム上で苦言を呈しておられましたし、社会経済学・社会思想史の専門家であられる佐伯啓思氏も2003年発行の著書「成長経済の終焉」(発行:ダイアモンド社)の中で詳しく述べられております。
 ここのところのブッシュ政権による政策(特に中東に関して)を見るにつけ、国際政治の素人である僕なんぞでも大きな疑問の声をあげたくなるにもかかわらず、アメリカ国内では大きな反対の声も上がっていないようです。これは日々の生活に追われ政治への関心が二の次になってしまっている今の大多数の米国民の状況もあるようです。
 それは単に海の向こうの出来事としてではなく、日本が今向かおうとしている社会のあり方への警鐘としても読み取れます。以下「成長経済の終焉」のp243~246から引用させていただきます。

(引用開始)
 さて、この「ニュー・エコノミー」の中で、消費者はますます便利なものを安価に手にすることができる。消費者の欲望をいち早く掴んだものは、いくらでも利益をあげることができる。自分をブランドとして売り出すことに成功したものは、巨額の金を手に入れることもできる。創造的な能力を持った「変人」や、人々の潜在的な欲望をかぎ付けることもできる「精神分析家」もこの市場の中で大成功を収めることができる。
 ただ注意しておかねばならないのは、こうした能力を評価するのはすべて市場だということだ。評価される能力はすべて「市場化可能なもの(マーケタビリティ)」なのであって、市場の評価に載らない者は、いかに独創的であって個性的であっても、単なる「変人」にすぎないのである。こうして、市場可能な能力さえ持てば、人々の成功の機会は広がり、その結果として、消費者はますます便利になった。 (…中略…)

 だが、その代償は何か。まず雇用が不安定となり、貧富の差が拡大した。特に売り込むべき何も持たない者は、世界の低賃金労働者と競争するために、以前より賃金が下がり、以前の生活を維持するのにはいっそう働かなくてはならなくなった。
 そして、彼らよりはるかによい報酬を得ている大卒の知的専門家もさらに忙しくなった。彼らは絶え間ない技術の革新と市場の開拓に追われ、ひとたびこのゲームから降りるや否や、もはや再び以前の地位や所得を手に入れることはできないからである。かくしてアメリカ人の平均労働時間は、いまやヨーロッパ人を年間で350時間も上回り、かの「働きすぎ」の日本人をも上回っている。アメリカ人こそが「仕事中毒」となっているのだ。いや正確に言えば、「仕事」をめぐる競争から降りることができなくなってしまったのである。

 で、その結果どうなったか。家族と過ごす時間が無くなってゆく。子供たちは大人と異なったルールで彼らだけの世界を作る。一つの家族なり社会のモラルや価値が失われてゆく。さらに地域コミュニティが崩壊してゆく。アメリカのよき伝統の一つであった様々な人々が入り交じり、ボランティア活動が可能であった地域コミュニティが解体してゆく。
 これを「コミュニティ」と呼んでもよいし、ギデンズのように「市民社会」と呼んでもよいが、ともかくも、人々が、自発的に集まり、そこに相互の信頼を生み出して、ある地域の価値観や生活スタイル、規範や規律などを維持してゆく地域的な生活圏が崩壊してゆくのである。それに代わって出てきたものは、金持ちがガードマンを雇って作り出す特権的な「ゲイティッド・コミュニティ」である。
 アメリカの社会学者パットナムは、『一人でボウリングを(Bowling Alone)』において、90年代のアメリカにおいて、いかに、人々が自発的に集まるサークルやクラブ、ボランティア活動、地域の集会などが消失に向かって行ったかを論じている。これは、アメリカの社会の自由やデモクラシーの基礎である「市民社会」の衰弱にほかならない、とパットナムはいう。この「市民社会」の衰弱こそは、アメリカの「勝利の代償」である。
 「市民社会」の衰弱から新しい格差が出てくる。競争経済は人々を「勝ち組」と「負け組」に分けてゆかざるをえない。そして、この不平等の累積的な進行があるからこそ、人々は家族やボランティアや市民活動を犠牲にしても働かざるをえないのである。(太字=当ブログ管理者)
(引用以上)


以下「新自由主義化先行国アメリカで進行する内部矛盾-2」へ続く
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by darsana-te2ha | 2006-08-01 16:53 | 世界情勢


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